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大阪高等裁判所 昭和53年(行コ)30号 判決

京都市東山区大和七条下ル四丁目本池田町五三一

控訴人

横山幸子

枚方市樟葉花園町五-二-六〇一

控訴人

佐野隆雄

右両名訴訟代理人弁護士

前堀政幸

前堀克彦

京都市東山区渋谷通大和大路東入る下新シ町

被控訴人

東山税務署長

川口一三

京都市上京区新町通一条西入る

被控訴人

上京税務署長

篠原秀峰

右両名指定代理人

坂本由喜子

中村治

神崎勝

小野恒夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

(控訴人ら)

原判決を取消す。

控訴人横山幸子の昭和四七年分贈与税につき、被控訴人東山税務署長が昭和四九年八月八日付で決定し、同年一二月一一日付異議決定で変更した贈与税六四五万四四〇〇円の決定処分並びに無申告加算税六四万五四〇〇円の賦課決定処分をいずれも取消す。

控訴人佐野隆雄の昭和四七年分贈与税につき、被控訴人上京税務署長が昭和四九年一二月二〇日付でなした贈与税六四五万四四〇〇円の決定処分及び無申告加算税六四万五四〇〇円の賦課決定処分をいずれも取消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

(被控訴人ら)

主文と同旨

二  主張

次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人ら)

控訴人らが吉川らから贈与を受けたのは、保留地予定地について吉川らが落札して得た権利である。この権利(以下、単に本件権利ということがある)は、保留地予定地の所有権ではなくて、落札者が訴外上賀茂土地区画整理組合に対して有する将来の保留地の取得を目的とする債権的請求権である。本来保留地たる土地は、土地区画整理事業が完了し換地処分がなされたときに組合がその所有権を原始的に取得するものであって、それまでは物理的に特定していても法律上所有権の対象とならないものである。そして落札者がその管理者である組合から引渡をうけてこれを使用収益するのも、組合との前記債権的契約に基づくものであり、またその債権は、組合が所有権取得後前記債務の履行として所有権移転の意思表示、すなわち登記申請をするまでいつでも自由に第三者に譲渡されうるものであって、その場合の組合への通知は対抗要件にすぎないものである。ところで本件においては組合から控訴人らに対する所有権移転登記がなされ、これが債務の本旨に従った組合の給付になるのであるから、それ以前に吉川らが本件土地の所有権を取得できる筈はなく、また右履行前に吉川らから控訴人らへの本件権利の贈与があり、対抗要件としての前記通知がなされていたことも勿論であって、本件贈与の時期に拘らず吉川らが本件土地の所有権を取得し、これを控訴人らに贈与したものでないことは明らかである。

なお以上に述べたことは、昭和五三年法律第九号、政令第七五号により新設された地方税法七三条の二第一二項、同法施行令三六条の二の四の規定が、保留地予定地の取得を目的とする契約が締結されたときは、その契約に基づいて右土地について使用し、又は収益することができることとなった日において右土地の取得がされたものとみなし、不動産取得税を課することとし、また同法三四三条六項が、固定資産税の賦課について保留地予定地の使用者をもって所有者とみなす旨規定するに至ったことからも明白である。すなわちこのようなみなし規定は、保留地予定地についてはいまだ土地売買による所有権移転ということがなく、その売買によっては単に土地の将来の取得を目的とする契約上の債権債務が発生しているにすぎないことを肯認したうえで、保留地を落札して引渡をうけた者の権利の実質が経済的に土地取得と殆んど異らないことなどを考慮し、課税の便宜上本来の法理を超えて法律関係を擬制することにしたものである。しかしこれら規定はいずれも本件権利の贈与、さらに本件土地の所有権移転登記の日の後に制定されたものであり、租税法律主義の法理からしてもこれを本件に類推適用することはできない。

そして控訴人らは昭和四三年秋頃は未婚の婦女又は学生で、当時成年に達していたとはいえ自ら財産を支配する機会や能力がなかったため、その管理を父である吉川らに任せていたのであり、本件贈与行為は甲第一号証念書の作成により完了していたものであって、地価の上昇ひいて高額の課税が予想される登記の日まで履行の時期を延ばすことなど考えられず、対抗要件にすぎない登記のために停止条件が付加されていたとするのも当事者の意思を逸脱し、衡平を失するものといわねばならない。

(被控訴人)

保留地予定地の払下げにより、特定した場所の引渡しを受けて使用収益し、かつ権利の処分が可能である等の事情がある場合、右権利の内容は経済的実質的には保留地そのもの、すなわち土地の所有権を取得したのとなんら変らず、地方税法三四三条六項も固定資産税の賦課について保留地予定地の使用者をもって所有者とみなす旨定めている。そして甲第一号証念書は作成時期があいまいであるばかりでなく、その表題及び内容からみても、その目的は将来の土地所有権の贈与と、その際の紛争防止のため相続関係人の了解をえておくことにあり、このことはその後組合による控訴人らへの権利譲渡の承認のときまで吉川らが自己のために本件土地の使用収益をしてきたことからも明らかであって、それ以前に以上のような実質的な権利の移転があったとすることはできない。

三  証拠

次に付加するほか、原判決証拠摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人ら)

(一)  当審証人吉川幸太郎の証言を援用。

(二)  乙第二〇号証の成立を認める。

(被控訴人)

乙第二〇号証を提出。

理由

当裁判所も控訴人らの本訴請求は理由がないと考える。その理由は次に付加するほか原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する(但し、一四枚目表九行目の「同月」を「九月」と訂正し、同裏五行目の「土地を」の次に「その名で」を、一八枚目裏一一行目末尾に「当審証人吉川幸太郎の証言中これに抵触する部分は採用し難い。」を各加える。)。

控訴人らは、本件で贈与をうけたのは将来の保留地の取得を目的とする落札者の債権的請求権であると主張するところ、本来保留地は土地区画整理事業完了後換地処分の公告の翌日に組合が原始的にその所有権を取得するものであり、右公告前は組合としても使用収益権を有するにすぎないものであるが、組合がその事業経費調達のため保留地を売却処分することはむしろ法の予定するところであって、処分の法律的性格をどのように解するかは兎も角として、その対象となるのは現実的には将来所有権に昇華すべき保留地の使用収益権というべきである。そして組合規約等に制約がない限りさらにこれを譲渡することも可能であるところ、本件においては引用部分掲記のとおり昭和四七年六月二二日換地公告の約三ケ月後に吉川らから控訴人らへの権利譲渡承認の申請がなされたのであって、右引用部分指摘の諸事実、特にそれまで前記譲渡承認の手続がなされず、吉川らにおいてその名で自己のために本件保留地の使用収益を行い所得の申告をしてきたことなどに照らすと、控訴人ら主張のように甲第一号証念書作成当時贈与による権利移転があったものとすることは到底できないのであって、その課税価額についても叙上現実の権利の内容、さらに贈与の条件成就の際は本件土地が法律的にも所有権の対象となるものであったことにかんがみ、贈与の結果これが組合から控訴人らへ直接移転されることになったとしても、その権利の価額、すなわち被控訴人主張の本件土地の時価によるのが相当である。

そうすると、本件控訴は理由がないから、控訴費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 黒川正昭 裁判官 志水義文 裁判官 林泰民)

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